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Essay

Saul Leiter: In Stillness

By Yumiko Izu
October 2, 2018

I met Saul Leiter for the first time in the kitchen at Howard Greenberg Gallery. He invited me to his home, and as a great admirer of his work, I gladly accepted. Thereafter, every time I visited Saul’s apartment in the East Village was a magical experience. We talked about art projects, current affairs, old Japanese prints, coffee and cats. The conversation was full of humor, laughter and compassion. I always found myself drawn to the tall glass windows and cracked plaster walls which embodied the passage of time.

In 1946, a 22-year-old Saul Leiter quit his rabbinical studies and moved to New York. Against the wishes of his father, an internationally recognized Talmud scholar, he chose a dream of becoming a painter. Saul moved into an apartment at 111 East Tenth Street in 1952 and for more than four decades, he and his companion Soames Bantry shared a life of art together. Saul died at home peacefully on November 26, 2013, at the age of eighty-nine.

Three weeks after Saul’s death, I was granted permission by Margit Erb, the director of the Saul Leiter Foundation, to photograph the inspirational interior of Saul’s apartments. No.4 and No.15 were filled with a profound silence, yet I felt his spirit in the air and in the objects he had left behind. Today, only apartment No.15 remains as the headquarters of the Saul Leiter Foundation.

Five years later, the Saul Leiter Foundation permitted me to return and photograph Saul’s belongings. He left a myriad of photographs, paintings, watercolors, notebooks, cameras, undeveloped film, color slides, watches, letters, books, Talmud, little straw brushes and keys. Saul’s objects tell us about his personal life as an artist. They reveal Saul’s deep love for Soames and the complex relationship with his parents and his sister.

“Saul Leiter: In Stillness” is a biographical work that depicts the interior and exterior of Saul’s apartment along with his objects. Saul lived on East Tenth Street for sixty years. Within a few blocks of the East Village, he found many beautiful things, which brought to life his belief that “mysterious things happen in familiar places”. It is my hope that the world will discover another facet of Saul Leiter through my work.

Saul Leiter: In Stillness」井津由美子
2018年10月20日

ソール・ライターに初めて私が出会ったのは、マンハッタンのハワード・グリーンバーグギャラリーのキッチンだった。彼は土曜日には必ずベーグルが置いてあるそのキッチンに、日頃からよく遊びに来ていたようだ。ソールからアパートメントに遊びにきたらどうかと誘われた私は、彼の作品に強く惹かれていたこともあり、招待に快く応じた。ソール・ライターの魅惑的で創造性に満ちた場所に、この後何度も訪れることになるとは、その時の私にはまだ知る由もなかった。

ソールのイーストヴィレッジのアトリエ兼アパートメントを訪れる度に、楽しくインスピレーションに溢れる時間を彼と一緒に過ごした。笑みをたたえたやさしい眼差し、ウイットに富んだ会話、コーヒーの香り、いつも物があふれていて、そこに大きな窓からの光が降り注いでいた様子を思い出す。

ソールの人生のパートナーで画家でもあったソームズ・バントリーは、その頃にはすでに他界していた。ソールとソームズは半世紀近い時間をこのアパートメントで一緒に過ごした。このふたりの芸術家の歴史が、ひび割れた天井の壁のひだに、うず高く積まれた絵とコラージュの間に、散らばったフィルムとホコリを被ったプリントに、ひっそりと染み込んでいるようだった。

1946年、ソール・ライターはユダヤ教神学の勉強を打ち切り、ニューヨークに移った。当時22歳だったソールは、著名なユダヤ神学者だった父親の意志に背いて画家になる夢を選んだ。1952年にイースト・テンスストリートに移って以来、半世紀以上をこのアパートメントで過ごし、2013年の11月26日に馴れ親しんだこの場所から安らかに旅立った。

ソール・ライターが亡くなった3週間後に、ソール・ライター財団からの許可を得た私はアパートメントを撮影した。ソールが生きていた頃と何ひとつ変わらない、全ては生前の状態のままに保たれていた。窓辺に置かれたペインティングの道具、棚の中のカメラ、椅子に掛けられた帽子やマフラーは、主人が戻って来て使われるのを待っているかのようだった。アパートメントは深い静寂に満ちていたが、ふとした瞬間にソールの気配を感じることがあった。

それから5年後の2018年にソールの残した遺品を、ソール・ライター財団の全面的な協力を得て撮影した。写真家であり画家であり詩人でもあったソールは、膨大な数のものを残した。プリントとスライドと未現像フィルム。油絵と水彩画とスケッチブック。時計と手紙と詩。書物とユダヤ聖典。日本製の藁のブラシと鍵。ソール・ライターが生前に愛したものたちは、彼のアーティストとしての私的な人生を教えてくれる。ソームズへの敬愛を、両親への悲哀を、妹への苦悩を、密やかに暗示する。

Saul Leiter: In Stillness」は彼が過ごしたアパートメントや彼が愛おしみ大事にしてきた遺品を通して、ソール・ライターの人生を辿るプロジェクトです。ソールは60年余をイースト・テンスストリートで過ごし、煉瓦造りの建物が並ぶ数ブロックの狭いエリアで、たくさんの美しいものを見出した。「神秘的なことは、身近な場所で起きる」という彼の言葉のように。このプロジェクトを通して、新しいソール・ライターが発見されれば幸いです。