YUMIKO IZU PHOTOGRAPHY

Secret_Garden_Blanc73

井津由美子の闇と黄泉 「シークレット・ガーデン」に寄せて
小手鞠るい(こでまり・るい)小説家
2014年5月21日

出会いは「白」だった。

ニューヨーク州ウッドストックの町はずれにあるアートギャラリーで、初めて井津由美子の作品を見たとき、私は、花たちの背景を流れる霧のような白に惹かれた。花を包み込む、というよりは、花を吸い込んでいるかのような、幽玄な白。もしかしたら、この写真家が撮ろうとしているのは、花ではなく白なのではないかとさえ思った。

それから長い年月が過ぎて、写真家の暮らす湖畔のスタジオで「シークレット・ガーデン」の花たちに再会する機会に恵まれた私は、そこで初めて「黒」に出会った。

静謐な黒。漆黒のビロードのような黒。井津由美子の真骨頂とも言える闇の色である。 少し前に、動物たちの頭蓋骨を撮ったシリーズ『闇の彼方へ』—Farawayに魅了されていた私はたちまち、この黒の虜になった。白と黒、すなわち、生と死が隣り合わせになって、ときには綯い交ぜになって咲いていてこそ、それこそが井津由美子の創り出す庭だったのだと、目から鱗が落ちるような思いを味わった。

じっと見つめていると—この庭にたたずんでいると—私の目の前で、不思議な反転が起こった。黒に浮かび上がる花たちの、なんと妖艶で可憐で饒舌なこと。黒に優しく守られて、根を持たない花が、朽ちていこうとしている花が、生かされている。黒が花たちの「生」と、その最期の躍動をつかさどっているかのように。対する白の、ある種の恐怖にも似た、残酷なまでの美しさはどうだろう。限りなく「死」に近いこの白。白装束の白。漂白。白紙にもどす。潔癖で、純粋で、排他的な白。黒は、現世の艶めかしい闇の色。白は、死後の容赦ない無の色。

黒と白が逆転し、生と死が入れ替わるのを目の当たりにして、私は悟った。この写真家の写し出す花々の「美」は、つかのまの生の輝きであると同時に、きたるべき死の息吹でもある。あるいは、こうも言えるだろうか。ここで咲いている花たちはどれも、誰もがいまだ目にしたことのない「魂」の化身なのであると。

誰もが、生まれた瞬間から刻一刻、死へと向かってひた進んでゆく。生きている、ということはすなわち、死んでゆくことに、ほかならない。彼女の写真に私は、そんな私たちの行き着く先にある、安息の地であり、魂の隠れ処でもある、黄泉の世界を見る。「だけど、だれにも言わないで。これは、あなたとわたしだけの秘密よ」ささやきかけてくる花たちに囲まれて、ひとたび迷い込んでしまったら、脱け出すことはできないし、抜け出したくなくなる。ここは、生と死が密約を交わした、シークレット・ガーデンなのである。